一度手を上げてしまうと、混みあい過ぎて元に戻せないそうだ。満員電車状態。
「3番にはだかが倒れています。救護隊は救助へ向かってください」と境内にアナウンスされると
救護隊が人の波を突っ切り、救助へ向かう。
「まわりのはだかも救助がきたら手をあげて知らせてください」とさらにアナウンスが告げられる。
そうなのだ、参加者は「はだか」という名前で呼ばれるのである。
この「はだか救出作戦」が5回ほどあった。
「ご宝木(しんぎ)の投下まであと10分・・・あと5分・・・3分」とアナウンスが響く。
刻々とクライマックスが近づいてきた。
その瞬間、明かりがすべて落ちた。
明かりは時折光るカメラのフラッシュのみ。
瞬間で見られるその光景はまるで稲光に映し出される地獄絵図のようであった。
突然に暗くなったもので、カメラはこの変化に対応できずピンボケ写真となる。
光の明滅と裸体の集合。黒澤明ならきっと獲りたくなるであろう
いまだかつてない日本の根源的光景。
もし機会があればぜひとも動画でみてほしい。
一人がダッシュした瞬間、 みながそこに群がる。
まるで、ラグビーのようである。
しかし、そのダッシュもフェイクかもしれない。
一人の力で宝木を境内の外へ持ち帰ることなど不可能で、
みんなチームを組んであの手この手で工夫して奪い合うそうだ。
持っているふりをする人間、実際に持った人間を仲間たちが囲み
他のチームに奪われないようにしたりと数々の戦術があるそうだ。
「宝木は門を抜けたもようです。裸のみなさんは退場してください」とアナウンス。
そして、祭りは終わったようだ。
宝木が投下されるまでの盛り上がりに比べ、投下後は意外に地味である。
はだかとおなじく、拍子抜けで呆然と立ち尽くしてしまったぼく。 (次へ)